第1回「不妊治療と仕事の両立支援」~社会保険労務士の立場から~
オフィスME 社会保険労務士事務所
一般社団法人日本ワーク&ライフエンゲイジメント協会
高野 美代恵
1.不妊治療と仕事の両立支援の現状と取り組む意義
企業にとって、不妊治療と仕事との両立が困難なことにより離職する人材が増えることは、労働力の減少、ノウハウや人的ネットワーク等の消失、新たな人材を採用する労力や費用の増加などのデメリットをもたらします。逆に、社員が不妊治療をしながら働き続けやすい職場づくりを行うことは、安定した労働力の確保、社員の安心感やモチベーションの向上、新たな人材を引き付けることなどにつながり、企業にとっても大きなメリットがあると考えられます。企業が社員の事情に応じてサポートする姿勢を示すことは、社員にとっても安心でき、仕事への意欲が増すなどの大きな影響を与えます。
厚生労働省平成 29 年度「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」より、不妊治療をしている(または予定している)労働者が会社や組織等に希望することとしては、「不妊治療のための休暇制度」や「柔軟な勤務を可能とする制度(勤務時間、勤務場所)」「有給休暇を時間単位で取得できる制度」が多く挙げられており、その他、「有給休暇など現状ある制度を取りやすい環境作り」や「上司・同僚の理解を深めるための研修」等も一定程度ニーズもありました。
不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりが望まれる中、不妊治療と仕事の両立支援には、決められたやり方はありませんが、不妊治療と仕事の両立をしようとする本人と周囲の上司・同僚は互いに支えられ合っていることの理解を浸透させ、ハラスメントのない職場づくりを進めることは、企業にとって大切なことでもあります。
そこで、不妊治療と仕事の両立支援導入ステップについて紹介します。
2.不妊治療と仕事の両立支援導入ステップ(資料出所:厚生労働省「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」)
(1)ステップ1:取組体制の整備
不妊治療と仕事との両立に関し企業として推進する方針を企業トップが示し、講じている休暇制度・両立支援制度とともに社内に周知します。
(2)ステップ 2:社員の不妊治療と仕事の両立に関する実態把握
実態把握は、社員の不妊治療と仕事との両立支援の取組を進める上での出発点となります。
社内の実態把握方法:チェックリスト、アンケート、社員からヒアリング又は労働組合等が社員との意見交換の上で要望をまとめるなど
(社内ニーズ調査例:https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000807623.pdf)
(3)ステップ 3:制度の設計・取組の決定
ステップ 2 の実態把握を踏まえて、各企業の実態に応じた取組を検討し、制度設計を行います。
このとき、不妊治療と仕事との両立に特化した制度だけではなく、社員のニーズに応じて柔軟に働ける制度や通常の働き方改革の見直しを行うことで社員全体の取組とすることができます。
(4)ステップ 4:運用
不妊治療を受けるために制度を利用する場合、社員本人からの申出が基本です。
運用においては、①不妊治療のための休暇制度・両立支援制度についての情報等を企業内の役員、管理職も含め全社員に周知すること、②不妊治療に対し理解のある職場風土づくり、③不妊や不妊治療を理由としたハラスメントが生じることのないよう意識啓発を行うことなどを挙げることができます。
(5)ステップ 5:見直し
制度や取組の実施後は、毎月、半年、1 年等、一定の期間が経過した後に、取組実績を確認し、評価や見直しを行うといったプロセスが必要です。
(参考:https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30k.pdf)
3.次世代育成支援対策推進法の改正(くるみん認定)
厚生労働省では、次世代育成支援対策推進法(以下「次世代法」)施行規則を改正し、くるみん、プラチナくるみん、トライくるみんの一類型として、新たに「不妊治療と仕事との両立」に取り組む企業を認定する「くるみんプラス」等制度を新設しました。
不妊治療と仕事との両立に関する認定基準は以下の通りです。
(1)次の①及び②の制度を設けていること
① 不妊治療のための休暇制度(不妊治療を含む多様な目的で利用することができる休暇制度及び利用目的を限定しない休暇制度を含み、年次有給休暇を除く)
② 不妊治療のために利用することができる次のうちのいずれかの制度
ア 半日又は時間単位の年次有給休暇
イ 所定外労働の制限制度
ウ 時差出勤制度
エ フレックスタイム制
オ 短時間勤務制度
カ テレワーク
(2)不妊治療と仕事との両立の推進に関する方針を示し、講じている措置の内容とともに労働者に周知していること
(3)不妊治療と仕事との両立に関する研修その他の不妊治療と仕事との両立に関する労働者の理解を促進するための取組を実施していること
(4)不妊治療を受ける労働者からの不妊治療と仕事との両立に関する相談に応じるための担当者(両立支援担当者)を選任し、労働者に周知していること
(参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/999zentai.pdf)
4.次世代育成支援対策推進法に基づく「行動計画策定指針」の改正
次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画策定指針を改正し、一般事業主行動計画に盛り込むことが望ましい事項として、「不妊治療を受ける労働者に配慮した措置の実施」を追加しました(令和3年2月告示、同年4月より適用)。
(参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000742874.pdf)
5.中小企業事業主の方への助成金
(1)働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
生産性を向上させ、労働時間の縮減や年次有給休暇の促進に向けた環境整備に取り組む中小企業事業主の皆さまを支援する助成金です。不妊治療休暇制度を導入したい場合に活用できます。
(参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html)
(2)両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)
不妊治療と仕事との両立に資する職場環境の整備に取り組み、不妊治療のために利用可能な休暇制度や両立支援制度を労働者に利用させた中小企業事業主の皆さまを支援する助成金です。労働者が休暇制度・両立支援制度を利用した場合に活用できます。
○支給対象となる事業主:次の①~⑥のいずれか又は複数の制度を導入し、労働者に利用させた中小企業事業主
①不妊治療のための休暇制度(多目的・特定目的とも可)、 ②所定外労働制限制度、
③時差出勤制度、④短時間勤務制度、⑤フレックスタイム制、⑥テレワーク
○申請のステップ:
両立を支援する旨の企業トップの方針の周知⇒社内ニーズ調査⇒就業規則等の規定の周知
⇒両立支援担当者の選任⇒労働者のための「不妊治療両立支援プラン」の策定
○支給額:
A「環境整備、休暇の取得等」
最初の労働者が休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)利用 28.5万円<生産性要件を満たした場合、36万円>
B「長期休暇の加算」
A を受給し、労働者が不妊治療休暇を 20 日以上連続して取得 28.5万円<生産性要件を満たした場合、36万円>
(参考:https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000928925.pdf)