産業保健職の現場課題 Q5

Q5
 企業内で人事部門ではない部門に所属する常勤の産業保健看護職です。健康問題を抱えた従業員個人への対応を行う際、人事部門とは適宜に健康情報を共有することがある一方で、ほんらい健康管理での連携が必要なその従業員の所属部門の上司とは健康情報を共有できる体制になっていないために、当該上司に具体的な助言を提供し、直接に情報収集して連携することに躊躇してしまいます。また、産業医は月1回来社するだけの非常勤であるため、こまめな情報共有や相談は難しい状況です。このような場合、従業員の所属部門の上司と適切に連携するためにはどうすればよいでしょうか。

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総論

 従業員の所属部門の上司との関係でも、必要な助言・連携は行う。ただし、事前に産業医に可否を相談し、産業医からの情報提供という形をとる。緊要の場合には、自身の判断で情報連携する。人事には、連携体制づくりを働きかける。
 産業医には、来社日以外の至急対応も可能な契約とするよう、会社を通じて持ちかける。
 人事、産業医らと共に協議し、従業員からの相談を受けた場合の連携体制を明らかにしておく。協議の結果は、適宜、健康情報の取扱規程にも反映させる。

詳論

 産業保健職が従業員からの相談に応じているとき、その従業員の直属の上司らにその従業員の健康情報を共有する権限がない場合にも、必要に応じ、当該上司との連携が求められます。ただし、できる限り、情報を加工することが望まれます。例えば、「○○さんがお困りのようなので、時間をとって話を聞いてみてあげて頂けませんか」、とか、「○○さんについて、こういう点に留意してあげてくれませんか」などです。長時間労働など、職場全体の問題がある場合には、個人名を伏せて、職場に対し、何らかの改善の取り組みを促すよう働きかけることも考えられます。

 非常勤の産業医であっても、産業医から、産業保健職が上司へ情報連携することについて許可を受けたり、判断権限について委任を受け、産業医の名義で判断し、連携する方法もとれます。また、急ぎの対応が必要な場合には、定期的な来社日以外に電子メールで相談をしたり、オンラインで打合せを行ったりすることも可能としておくことが望ましいです。ただし、追加対応が生じたときの報酬等についても定める必要が生じるため、個人的に依頼するのではなく、企業と産業医との間の契約に盛り込むことになります。
 そして何より、人事、産業医ら関係者が話し合い、社内の産業保健職として従業員からの相談を受けるときの枠組み、流れ図などを明らかにしておくことも大切です。例えば、産業保健職が、従業員から「このことは人事部や私の上司に伝えないでほしい」とか「産業医にも言わないでほしい」と言われた場合に、社内外のしかるべき窓口へ相談するように誘導するのか、それとも、自身にできる制約を伝えたうえで相談を受けるのか、といった点です。そうした手順につき、相談受付の案内に注記を入れる、面接の冒頭で説明する、といった対応も考えられます。必要に応じて、健康情報の取扱規程にも盛り込んでおくと安心です。
 産業保健職は、従業員の相談に応じているだけではなく、当該従業員の上司とも直接に接触して、勤務状態を正確に把握し、環境調整の助言を提供するなどの連携が求められます。自分の立ち位置や役割を意識し、一人で抱え込むのではなく常に組織やチームでの対応を心がけることが重要です。

 

 

産業保健職の現場課題についてのQ&A | 日本産業保健法学会 (jaohl.jp)