産業保健職の現場課題 Q4

Q4
 企業の人事部門に所属する産業保健職です。医療専門職として適切と考える対応と企業側の意向との間にコンフリクトが生じやすい状況(例:精神障害やがん等で療養した従業員の復職)において、企業内の指揮命令系統に従うことと専門職としての独立性・中立性の確保をどう両立させればよいのでしょうか。

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総論

 産業保健職の「独立性・中立性」とは、専門的知識に基づき誠実に職務を行うことを指す。
 一見利害が対立しているように見える場面でも、関係者それぞれの背景事情をよく把握することで、コンフリクトそのものを解消できることも少なくない。
 日頃からの活動を通じて労使双方との信頼関係を築いておくと、専門職の立場で企業の意向に異を唱えざるを得なくなった場面でも調整が可能になることが多い。

詳論

 いわゆる「働き方改革」の一環として2019年4月に施行された改正労働安全衛生法では、「産業医の独立性・中立性の強化」として「産業医について、専門的知識に基づいて誠実にその職務を行う責務を定める」ことが明確化されました。産業医に限らず、産業保健職が企業の人事部門等に所属する場合、個人・集団・組織を対象とする医療専門職の立場と、自分自身が労働者として組織のライン(指揮命令系統)に組み込まれている立場を両立しながら業務を遂行することになります。その中で、例えば精神障害やがん等で療養した従業員の復職に際して、医療面から最大限の配慮をして安定就労の機会をつくる観点から最善と考えられる判断と、職場の都合を重視してそれとの調整を図る判断とが折り合わない場合など、企業としての決定をどこに着地させるべきか葛藤する場面が生じることも想定されます。現場での課題には所与の正解があることは少なく、様々な立場から意見を出し合い、合意できる点を探り、折り合いをつける作業が多くなります。その際は、専門職としての判断を、裏付けを持って明確に伝えることが必要となります。ただし、医学的な視点だけに固執すると、立場や知識の異なる関係者の目からは独りよがりな主張と受け取られかねないため、より広い視野で関係者それぞれの背景事情をよく把握し、中長期的な見通しも含めたバランスのよい議論を交わすことが非常に大切です。そうすることで、一見コンフリクトを生じている、すなわち利害が対立しているように見える場面でも、関係者間で合意できる点が見出され、コンフリクトそのものを解消できることも少なくありません。また、大前提として、日頃からの活動において、誠実に解決への支援を積み重ねることで、労使双方との信頼関係をしっかり築いておくことが重要です。もしコンフリクトを解消しきれず、専門職の立場で企業の意向に異を唱えざるを得なくなった場面が生じたとしても、信頼関係のある産業保健職の発言であれば受け入れられやすくなることでしょう。この考え方は、産業医でも産業保健看護職でも変わらないと考えられます。

 

 

産業保健職の現場課題についてのQ&A | 日本産業保健法学会 (jaohl.jp)