Q5:派遣社員の休業

Q5 当社には、店舗での販売業務に従事している派遣社員がおります。新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言下において、当社の店舗は、都道府県知事から、社会生活維持のために必要な施設とはされておらず、一方、使用制限や停止を要請・指示された施設でもありませんが、店舗所在地域に対する外出自粛の要請に協力するために、当面、全ての店舗を自主的に休業しているため、店舗に勤務している当社社員と同様、派遣社員にも休んでもらっています。当社社員には、今のところ、休業中も給与の全額を支給しておりますが、派遣元からは、派遣料金の全額を支払うように求められています。このまま店舗休業が続けば、同じように休ませている当社自身の社員の給与が支払えなくなるおそれがあるのに、派遣料金の方は支払わなければならないのでしょうか?

 

A 事情によっては、必ずしも、派遣料金の全額を支払うことが当然というわけではありませんので、派遣料金の減免について派遣元と交渉してみるべきです。この問題は、一次的には、派遣元との間で締結している労働者派遣契約書に定めがあれば、それに従って解決されるべきことですが、そのような定めが無い場合には、民法の危険負担の規定(第536条)により、派遣社員が就業できないことが派遣先の「責めに帰すべき事由」によるのか否かによって判断されます。緊急事態宣言下で外出自粛要請が出されている状況で、生活必需品ではない商品・サービスを扱う店舗を自主的に休業していることなどが派遣先の「責めに帰すべき事由」と評価すべきなのか、そもそも派遣元・派遣先という独立した事業者間でのリスク分配の問題に、労働者派遣法という労働法令による変容をどのように及ぼすべきかなど、立場によって見解が異なり得るところですが、派遣先としては、この未曽有の危機において派遣社員の雇用と生活をできる限り保護し、営業再開に備えることも念頭に置きつつ、派遣元に対し、派遣社員を休業させざるを得ないことになった自社の事情について丁寧に説明し、派遣元での雇用調整助成金の申請など、できる限りの自助努力を求めるなどして交渉し、双方にとって公平な負担割合の着地点を探るべきと思われます。


【解説】*本論の下に要点補論を加えました。合わせてご参照下さい(2021.2.9)。

1.新型コロナウイルス蔓延のスピードを抑え、医療崩壊を防ぐためにも、私たち一人ひとりにでき得る限りの協力が求められています。我が国では、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言のもとでのほとんどの行政措置について、法的な強制力はなく、違反への罰則もありませんが、緊急事態宣言の発令(令和2年4月7日に東京都、大阪府等の7都道府県、同年4月16日には全国)以降、都道府県知事から使用制限・停止を要請された施設ではなくても、“不要不急”とみなされる店舗は休業し、地域への外出自粛要請に協力していることが多いでしょう。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が出した令和2年4月22日の状況分析・提言においても、緊急事態宣言下において、今後の流行をおさえるためには、すべての国民を対象に、「人との接触を8割減らす」ことが重要であるとされています。

しかし、店舗休業に伴って店舗での販売業務に従事していた社員を休ませた場合、必ずしも給与を支払わなくても構わないことにはならないことは、Q3の回答・解説のとおりです。

では、派遣労働者については、どうでしょう。

 

厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(令和2年4月30日時点版)は、派遣労働者について、「労働者派遣契約の履行を一時的に停止する場合[著者注:本件のように派遣労働者を完全に休ませることは、この場合に該当します。]や、労働時間や日数など労働者派遣契約の内容の一部を変更する場合には、それに伴う派遣料金等の取扱いについては、民事上の契約関係の話ですので、労働者派遣契約上の規定に基づき、派遣元と派遣先でよく話し合い、対応してください」〔下線は筆者〕と述べるにとどまります。

ところが、既に締結されている労働者派遣契約書において、本件のように派遣社員を休ませた場合の派遣料金の取扱いについて、何の規定も設けられていないことは、少なくないようです。労働者派遣というシステムの拠り所であり、派遣労働者を保護している労働者派遣法にも、このような場合について明文の定めはありません。

それでは、派遣先である貴社は、何を拠り所に派遣元と話し合ったら良いのでしょうか。

 

労働者派遣契約は、派遣元・派遣先という事業者間の契約ですから、まず、民法を参照してみます。民法第536条(*注)によれば、派遣労働者が就業できない場合に、派遣先が派遣元に対して派遣料金を支払う義務があるか否かは、派遣元・派遣先の間に特別な約束がない限り、以下の①及び②の「危険負担」のルールによって決まることになります。

  • 派遣元・派遣先双方の責めに帰することができない事由によって、派遣労働者が就業できないときは、派遣料金を支払う義務は消滅する(第536条第1項)。
  • 派遣先の責めに帰すべき事由によって派遣労働者が就業できないときは、派遣料金を支払う義務は消滅しない(第536条第2項)。

(注:平成29年に民法が120年ぶりに改正されました。新民法の施行は令和2年4月1日ですが、施行日より前に締結された契約については、改正前の民法の規定が適用されるので、本文では改正前の民法に基づき説明しています。もっとも、令和2年4月1日以降に締結された契約であるために新民法が適用される場合であっても、危険負担のルールは、実質的には改正前と変わりません。)

つまり、民法によれば、派遣労働者を休ませていることが派遣先の「責めに帰すべき事由」によるのでなければ、派遣料金は支払わなくてよいことになります。

 

上記②の「責に帰すべき事由」とは、判例・通説によれば、「故意・過失または信義則上これと同視すべき事由」を意味するとされています。

この点、もし店舗が、都道府県知事から施設使用の制限や停止の要請・指示の対象になったのであれば、法的な義務ではないものの、それに従わずに店舗を営業する選択肢は、事実上存在しないと考えることは不合理ではないでしょう。

一方、知事からの施設使用の制限や停止の要請・指示の対象になっていない店舗であれば、確かに、営業を継続する選択肢は残されていますから、それにもかかわらず自主的に営業を休止する判断をしたことを重視すれば、貴社の「責めに帰すべき事由」があるとの見解も成り立ち得ます。しかしながら、もし自主的に営業を休止する判断をしたのが、貴社ではなく、店舗が入居している施設全体の運営者であり、貴社は、施設全体の休業が決定されたために、玉突き的に、店舗を休業することを余儀なくされたケースであれば、貴社に「責めに帰すべき事由」はないと評価することに異論は少ないと思われます。このように誰が休業を決断したのかによって結論が異なることには違和感があることからすれば、そもそも自主的に営業を休止する判断をしたことを重視することは妥当でないと思われます。そもそも、緊急事態宣言の中、今後の流行をおさえるためには、すべての国民を対象に、「人との接触を8割減らす」ことが重要であるとされているにもかかわらず、生活必需品とはみなされない商品・サービスを販売している店舗が営業を続けることは、それに逆行することになりかねず、社会から受け入れられ難いことであると判断して自主的に営業を休止することは、社会通念にかなった行動であると評価されるべきでしょう。

たしかに、店舗を休業している間、店舗で働いていた派遣労働者に貴社の店舗以外の部署で働いてもらう、或いは、在宅勤務をしてもらうことができるのであれば、派遣元と協議して、契約内容を一時的に変更し、派遣労働者に就業してもらう途を探るべきでしょう。しかし、最低限の事業の機能を維持するために必要な社員を除いて貴社自身の社員にも休業させているような状況で、店舗での販売業務に必要なスキルや適性を有するとして派遣されている派遣労働者にテレワークで従事してもらうことができる業務はないのであれば、もはや、派遣労働者に休んでもらうことに、貴社の「故意・過失または信義則上これと同視すべき事由」、すなわち、貴社の「責めに帰すべき事由」があると認めることは難しいのではないでしょうか。

このように、派遣元との労働者派遣契約に特別な定めがなく、民法のルールによるのであれば、貴社には、派遣料金の支払いを免れることを主張することに合理性があるかもしれません。

 

それでも、派遣元は、派遣労働者に対しては、その休業中、少なくとも平均賃金の60%以上の休業手当の支払いをしなければならないかもしれません。

なぜなら、労働基準法第26条により使用者が休業手当(平均賃金の60%以上)を支払う義務を負う「使用者の責めに帰すべき事由による休業」とは、上述の民法第536条と同じ言葉を使ってはいても、それより広い概念であり、判例上、使用者の故意・過失による休業はもとより、経営・管理上の障害による休業を含み、天災地変、もしくはこれに準ずる程度の不可効力による休業以外のものは、使用者の責めに帰すべき休業に該当するとされているからです。

休業手当は、源泉所得税、社会保険料等を差し引いて支払うことになるので、平均賃金の60%ちょうどの支給では従業員の生活を破綻させかねず、実際には、それ以上の支払いが必要になることもあるのではないでしょうか。

 

その代わり、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」であるか否かにかかわらず支給される、派遣労働者の休業手当に関する雇用調整助成金も、派遣先ではなく、派遣元が対象になります。ご承知のとおり、政府は、雇用調整助成金を次々と拡充しています。今のところ令和2年6月末までの期間限定ですが、大幅に支給対象が拡大し、助成額が増額され、要件や手続きは緩和されています。

したがって、派遣元には、まず、雇用調整助成金の申請を行うよう求め、同助成金が得られるとしても、派遣社員に実際に支払う休業手当にどの程度不足するのかについて説明を求めるなどして(例えば、優秀な人材を業務再開時のために確保しておくためには給与全額の支給が必要なこともあり得るでしょう。)、派遣料金のうちどの程度を貴社が負担するのかについて、派遣元と交渉していくのが宜しいのではないかと思います。

 

2.とはいえ、派遣元の方では、以上とは異なる拠り所から、派遣料金の全額又は相当割合(少なくとも、派遣労働者に支払う休業手当に相当する額)は、派遣先に支払ってもらう根拠があると考えているかもしれません。

例えば、先述の派遣先の「責めに帰すべき事由」の範囲の解釈について、先ほどは、事業者間の契約であるから民法どおりであると考えましたが、派遣労働者の休業に関わるものであり、派遣料金は派遣元の休業手当支払いの原資にもなっているという理由で、労働基準法第26条と同様に広く解釈するべきだという主張があり得るかもしれません。ただ、そのように解釈してしまうと、派遣先は、もし自社で雇用している社員であれば、労働基準法上、休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う義務を負うにとどまる場面であっても、派遣社員に関しては、派遣料金の全額を支払うべきことになってしまいますから、結論の妥当性に疑問がぬぐえません。

一方、リーマンショック時の「派遣切り」の教訓を踏まえた平成24年改正により、労働者派遣法には、「労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たっては、当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保、労働者派遣をする事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならない。」(労働者派遣法第29条の2)という規定が設けられました。同法では、労働者派遣契約の当事者は、この規定により求められる措置について、労働者派遣契約で定めなければならないこととされているので、通常は、労働者派遣契約に同趣旨の定めが設けられています。そこで、派遣元としては、派遣先の都合により労働者派遣契約を中途で解除(ないし解約)する場面では、派遣先は派遣元に対し、派遣元の支払う休業手当相当額を損害賠償することが合意されているのであるから、休業の場合の派遣料金についても同様に取り扱って、少なくとも派遣元の支払う休業手当相当額については派遣先が負担するべきだという主張があり得るかもしれません。しかし、そもそも労働者派遣とは、基本的には派遣先が必要な際に必要な労働力を調達する制度であって(少なくとも、派遣先に雇用の保障を強く求める制度ではなく)、同法第29条の2は、不用意な派遣切りから派遣労働者を保護するための規定であって、このようなケースに適用できるか疑問ですし、適用できるとしても、派遣先の「都合」による解除といえるか、疑問です。

なお、令和2年4月1日から施行された、いわゆる「同一労働同一賃金」の法規制は、派遣労働者もその対象になっていることから(労働者派遣法第30条の3、同第30条の4等)、派遣元としては、派遣先の従業員が休業手当を支払われるのであれば、それと同等に派遣元が派遣労働者に休業手当を支払うことができるように、派遣先は派遣料金の支払いによって協力するべきだという主張があり得るかもしれません。しかし、派遣元が、派遣先の労働者との均等・均衡待遇を図る方式ではなく、派遣元での労使協定方式を選択しているのであればそのような主張は成り立ちにくいし、そもそも同一労働同一賃金規制は、派遣元に課されたものであって、派遣元は、それを踏まえたうえで派遣料金を決定するのが原則といえましょう。

 

このように、派遣先・派遣元の両者に一定の論拠があり得るところですので、貴社としては、派遣元との話し合いには誠実に対応し、妥当な負担割合の落としどころを見つける努力をしていただければと思います。

最後に、このたびの新型コロナウイルス流行による雇用の危機において、政府は、雇用調整助成金の支給を強化することを通じて雇用主が休業手当を支給して雇用を維持することを支援していることに鑑みれば、派遣元が支払う休業手当相当額をそのまま派遣先が負担するという考え方ではなく、派遣元には、まず、でき得る限り雇用調整助成金を受給してもらい、それでは不足するところについて、派遣元と派遣先が、それぞれの経営体力をも考慮して、分担することを話し合うという考え方にも合理性があるのではないかと思われます。

 

以上


(参考文献)

 

1.厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html
(令和2年4月22日の状況分析・提言https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000624048.pdf

 

2.厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(令和2年4月30日時点版) 9.労働者派遣
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

 

〈執筆者〉

小島 健一(鳥飼総合法律事務所・弁護士)

 

【要点補論】

1 派遣料金の支払いについては、派遣元と派遣先の間で締結された労働者派遣契約の定めによって判断されますが、適当な定めがない場合には、民法に基づいて判断されます。もっとも、派遣会社には、体力がなくて、こうした事態で適切な対応ができないところも多いので、雇用調整助成金等の公的な補償を活用する方法も検討すべきでしょう。

2 民法第536条第2項前段は、「債権者(この場合、派遣先)の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」と定めています。すなわち、派遣労働者を休ませていること(:派遣労働の受け取り拒否)が派遣先の「責めに帰すべき事由」に該当すれば、派遣料金を支払う義務が生じることになります。逆に、派遣先による派遣労働の受け取り拒否に応分の理由があれば、料金支払い義務は負わないことになります。

派遣労働者の雇用契約は派遣元との間にありますが、派遣労働者に対する指揮命令は派遣先が行うため、派遣先は、派遣労働者への安全配慮義務を負います[1]。また、被害の予見可能性があれば、派遣労働者に接触する第三者への安全配慮義務も負い得ます。派遣元も、労働契約等に基づき、派遣労働者や同人に接触する第三者への安全配慮義務を負うか、負う可能性があります。

他方、現状では、厚生労働省からも、発熱、せき等の症状がみられる労働者については新型コロナへの感染の可能性を考慮した労務管理が求められています[2]

以上を総合すると、派遣労働者の感染可能性等が高い場合、派遣元は、派遣先に対して派遣契約を適正に果たしたことにならないと解されます。よって、派遣元が、同等の労働者の代替派遣等の別途の措置をとらない限り、派遣先は派遣料金の支払いを拒否できることになります。一方、派遣労働者の感染可能性等が低いにもかかわらず、派遣先の判断で派遣労働者を休ませた場合には、派遣先は派遣料金の支払い義務を負うでしょう。

3 以上が法律論上の原則ですが、派遣労働者の感染可能性等を正確に測ることは難しいため、結局は、派遣先と派遣元との間において、雇用調整助成金の活用等を前提とした上で、話し合いで解決するのが妥当でしょう。

[1] 派遣労働者に対する派遣先の安全配慮義務を肯定した裁判例としてティー・エム・イーほか事件・東京高判平成27・2・26労判1117号5頁、七十七銀行事件・仙台高判平成27・4・22労判1123号48頁。

[2] 厚生労働省のウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html最終閲覧日:2020年12月9日)。

 

〈執筆者〉

淀川 亮(弁護士法人英知法律事務所・弁護士)

三柴 丈典(近畿大学法学部・教授)