Q4:整理解雇

Q4 休業による経営悪化に伴い、従業員を整理解雇することができるでしょうか?

 

A 整理解雇は、これを有効なものと認める法的なハードルが高いため、最後の手段であり、慎重な考慮と、十分な話し合いの上で実施するか否かを決定する必要があります。だからと言って、従業員が自ら辞表を出すことを強要することは違法であり、不法行為となりかねません。使用者は、従業員に対し、会社の経営状況について丁寧に事情説明を行い、配転、賃金減額、一時解雇などの方策について協議したうえ、退職金の上乗せ、退職後の生活のための情報提供や社会保険の受給の支援など(失業給付を含む)によって任意の退職を募ることから始め、従業員が納得し得る形で問題を解決するように努める必要があります。


【解説】

整理解雇とは、使用者が経営不振などの経営上の理由により人員削減の手段として行う解雇のことです。労働者側の事由を直接の理由とした解雇ではないことから、一般の解雇と比べてより具体的な基準に基づく厳しい制約(整理解雇の4要件または4要素)が課されています。ここで整理解雇の4要件または4要素とは、①人員整理の必要性:経営事情により余剰人員が発生しているか、②解雇の必要性:配置転換により余剰人員を吸収する等により、解雇を避ける努力を尽くしたか、③人選の合理性:解雇の対象者の選定が合理的になされたか、④解雇手続の相当性:解雇に至る手続が誠実に尽くされたか、を意味します。整理解雇が正当化されるためには、基本的には、これらの条件を全て充たす必要があり、裁判例では、特に、人員余剰を生じるほどの経営悪化が認められるか、解雇に至る手続の誠実さが重視される傾向にあります。

そのため、整理解雇は、容易には行うことができません。より詳細は、

1)厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」10  問4

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

2)厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」6 問8

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00018.html

3)倉重・近衛・森田法律事務所の『新型コロナ問題人事労務Q&A』のQ48(企業側)

https://kkmlaw.jp/news/free-ebook-to-rescue-hr-covid-19/

4)日本労働弁護団の新型コロナウイルス労働問題Q&AのQ5-1(労働者側)

http://roudou-bengodan.org/covid_19/

などをご覧ください。

使用者の方は、解雇が難しいのだとしたら、自分から退職した形にしようと、労働者に自分から退職届を出してもらおうとするかもしれません。しかし、強引な方法をとると、退職を強要したとして違法となり、不法行為責任を問われることもあり得ます。ただでさえ大変な状況であるにも関わらず、労働者から訴訟を起こされたりして、労働事件への対応も余儀なくされては、賢明とは言えません。「餅は餅屋」という言葉もありますので、一人で抱え込まずに、弁護士、社会保険労務士など、外部の専門家の客観的な意見を聞いて慎重に対応する方が、無用なリスクを避けられるかもしれません。普段から交流のある専門家がいない場合は、税理士など、普段から付き合いのある他士業に、人事労務に精通した弁護士や社会保険労務士の紹介を頼んでもよいでしょう。また、一般的な法律情報に関することであれば、夜間や休日に相談できる労働条件相談ほっとライン(0120-811-610、厚生労働省委託事業、https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/lp/hotline/)を活用する方法もあり得ます。使用者の相談も受け付けているので、匿名で相談してもよいでしょう。

新型コロナの流行により、想定外の経営危機に直面している会社は少なくないでしょう。仮に人員を削減せざるを得ないとしても、労働者が納得の上で退職できる道を探るほうがよいと思われます。例えば、会社の厳しい経営状況について真摯に説明を行い、配置転換や減給、事実上の一時解雇として景気が回復した際には雇い直すなどの方策[1]について協議したり、できる限りの退職金の上乗せを提案して希望退職を募ったり、退職後すぐに失業給付を受給できるように「会社都合の退職」として離職票を作成して交付し、雇用保険の手続きを案内するなどの方法により、従業員が利害得失を冷静に判断して、納得の上で退職に応じてもらえる可能性が高まります。このように誠実な手続を尽くす努力自体が、経営力を高めることに繋がるかもしれません。残る従業員が結束し、景気が回復したら解雇された従業員が戻ってきてくれるような整理解雇か、その逆かは、解雇に至る手続の誠実さによるところが大きいと解されます。もっとも、別に示す資金繰りなどの努力を尽くしても経営が立ちゆかない場合、銀行などに伝える前に専門のコンサルタント、弁護士などに相談し、事業承継、企業の清算などを図る方法も考えられます。

他方、労働者の方は、「『解雇する』「『解雇されると〇〇のような不利益がある』等と脅かしつつ、労働者に選択肢を与えず自発的に退職届を出させる形をと」ろうとする使用者もいるので、気をつけてください(上記日本労働弁護団の新型コロナウイルス労働問題Q&Aより)。このような出来事に遭遇した場合は、「いったん持ち帰って検討させていただきます」などと言って、退職届を出さないようにして、すぐに弁護士に相談するようにしてください。知り合いに弁護士がいない場合は、日本労働弁護団のホットラインなどに連絡してもよいでしょう(http://roudou-bengodan.org/covid_19/)。また、最寄りの労働局・労働基準監督署や、夜間や休日に相談できる労働条件相談ほっとライン(0120-811-610、厚生労働省委託事業、https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/lp/hotline/)に相談してもよいでしょう。いずれにせよ、簡単に諦めてしまうのではなく、専門家の助言を受けて対処するようにしてください。もし、すでに退職届を出してしまっていたとしても、諦めずに専門家に相談するようにしてください。なお、企業が倒産してしまうと、旧経営陣に個人賠償をさせることを含め、回収は非常に困難となるので、雇用者が倒産危機にある場合には、スピーディーな法的手続きが求められます。もっとも、賃金債権については、公的な補償制度(立替払い制度)があるので、労働基準監督署に相談してください。

以上


(参考文献)

水町勇一郎.労働法(第8版).東京:有斐閣,2020:164-168.

 

〈執筆者〉

清水 元貴(宏和法律事務所・弁護士)
小島 健一(鳥飼総合法律事務所・弁護士)

[1] なお、会社は将来の再雇用の申し出をするとしても、退職者においては、その申し出に応じるか否かの回答を留保し、失業中は積極的に求職活動を行い、いつでも他の会社へ就職する自由を持っておかないと、雇用保険から失業給付を受けられないおそれがあります。厚労省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」4 問12「雇用保険の基本手当は、再就職活動を支援するための給付です。再雇用を前提としており従業員に再就職活動の意思がない場合には、支給されません。」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html 参照。