Q13 現場復帰と障害者への合理的配慮

Q13 特例子会社で就業する障害者を在宅勤務に就けたところ、一部の者は、勤怠状況もパフォーマンスも改善しました。緊急事態宣言の解除後、その一部の者を元の就業に戻して状況が悪化したら、障害者法上の合理的配慮義務違反や健康配慮義務違反などに問われるのでしょうか?

 

A 先ず、その労働者と会社間の雇用契約上、債務の本旨に従った履行(民法第493条≓その契約の趣旨や目的を達するために求められる行為)として、職場での勤務が求められるか否かを検討する必要があります。日本の合理的配慮指針では、障害者の解雇を回避するために、配置転換の可能性を探ることまでは求められていますが(第4の1(2)ロ)、その雇用契約の債務の本旨に従った履行に当たらない業務に就けることまで求めているとは解されません。従って、仮に、債務の本旨に従った履行を果たすために、職場での勤務が求められるような契約内容であれば、職場での勤務に戻したとしても、原則として、それ自体は合理的配慮提供義務の違反ではありません。また、その職場での就労を行う場合に生じることが客観的に予想されるか、本人が個別に申し出た健康・安全リスクへの対策を講じていれば、健康・安全配慮義務の違反にも問われません。仮に、医師による診断、周囲の観察などから、職場での勤務をすれば勤怠悪化のような不調を来すことが明らかであれば、そこから外すことが健康・安全配慮義務の内容になり得ますが、在宅勤務を指示すべき義務はありません。つまり、その障害者に見合った水準が前提とはいえ、債務の本旨に従った履行を果たせないのであれば、休職処分を受け、いずれ解雇されてもやむを得ないということです。

B 一方、債務の本旨に従った履行を果たすため、職場での勤務が必ずしも求められない契約内容であれば、一定割合の障害者にとって、勤怠悪化のような不調をもたらす可能性が高い職場での勤務を命じることは、そうしないこと(=在宅勤務の継続)が会社にとって過重な負担とならない限り、合理的配慮提供義務違反になるおそれがあります。また、一定割合の障害者にとって、在宅勤務が職場での勤務よりも勤怠状況を改善させるのであれば、職場での勤務には障害者の健康状態を悪化させる要因があることがうかがわれることから、引き続き在宅勤務を継続させたり、職場での勤務の健康・安全リスクを調査して必要な改善措置を講じたりするのでなければ、健康・安全配慮義務違反に問われるおそれがあります。


【解説】

1.合理的配慮提供義務について

⑴ 債務の本旨に従った履行として求められる「職務」を行う上で、職場での勤務が必要か

障害者雇用促進法(以下、「法」といいます。)第36条の3の合理的配慮提供義務は、障害者からのあらゆる配慮要求に応じる義務ではありません。あくまで、雇用契約上の債務の本旨に従った履行として求められる「職務」を行う上で、その前提条件を整備するために、その「職務」の円滑な遂行に必要な措置(法第36条の3、合理的配慮指針(以下、「指針」といいます。)第4の1(2))を、過重な負担(法第36条の3ただし書、指針第5)にならない範囲で提供する義務です。そのため、まずは、債務の本旨に従った履行として求められる「職務」とは何かを確定して、その「職務」の遂行のために、職場での勤務が求められるか否かを、契約内容に即して検討すべきです。
そして、その「職務」の遂行のために、職場での勤務が不可欠なのであれば、職場での勤務を求めることは、原則として、合理的配慮提供義務の問題とはなりません。
もっとも、休業ではなく、在宅勤務にできていたということは、「職務」の遂行のために、職場での勤務が不可欠ではなかった可能性があります。
その場合、在宅勤務に比べて職場での勤怠が悪化するのだとしたら、「能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため」の「必要な措置」(法第36条の3)として、過重な負担とならない限り、合理的配慮提供義務の履行として、在宅勤務の継続が有力な選択肢となります。
それでは、在宅勤務の継続が、過重な負担となるか否かは、どのように判断するのでしょうか。

⑵ 在宅勤務の継続が過重な負担となるか

ある合理的配慮が過重な負担に該当するか否かは、事業活動への影響の程度、実現困難度、費用・負担の程度、企業の規模、企業の財務状況、公的支援の有無等の判断要素を総合的に勘案して個別に判断されます(指針第5の1)。
もっとも、生産性が向上した一部の障害者だけ在宅勤務を継続させると、他の障害者から不満が出るので、過重な負担となるなどとは認められないでしょう。なぜならば、合理的配慮は個々の障害者の障害の状態に応じて行われるものであり(指針第4の2)、配慮の程度に違いが生じることは当然であるためです。

⑶パフォーマンス改善に活かす

在宅勤務を継続するにせよ、職場での勤務に戻すにせよ、観察や対話により、労働者の勤怠状況やパフォーマンスに影響を与えている要因を調査検討する必要があります。たとえば、満員電車での通勤がパフォーマンス低下の原因であれば、勤務時間を変更したり、出社する必要性が乏しいときは在宅勤務としたり、上司や同僚のコミュニケーションスタイルがパフォーマンス低下の原因であれば、コミュニケーションを改善したりするなど、原因も対策も様々でしょう。パフォーマンス向上のために労働者と対話をすること自体が、労使の成長に繋がるかもしれません。

2.健康・安全配慮義務について

安全配慮義務の一環である健康配慮義務(労働契約法第5条)とは、健康被害の予見可能性とそれに基づく結果回避可能性を前提に、その結果回避のための手続ないし最善の注意を尽くす義務(安全衛生に関するリスクを調査し、管理する義務)です。具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的状況をもとに判断されます。
一定割合の障害者にとって、在宅勤務が職場での勤務よりも勤怠状況を改善させるのであれば、職場での勤務には障害者の健康状態を悪化させる要因があることがうかがわれるので、引き続き在宅勤務を継続させたり、職場での勤務の健康・安全リスクを調査して必要な改善措置を講じたりするのでなければ、健康・安全配慮義務違反に問われるおそれがあります。
さらに、一旦は慣れた在宅勤務から再び職場での勤務に戻ることによるストレス、通勤や職場での勤務により新型コロナウイルスに感染することへの不安など、従来とは異なる精神状態が生じている可能性がありますので、それに対する対策を講じることなく労働者が体調を崩した場合も、健康・安全配慮義務違反に問われるおそれがあります。
もちろん、在宅勤務を継続させた場合にも、業務の質量、コミュニケーションの確保など、様々な面で、健康・安全配慮義務を負う可能性が生じます。

以上


(参考文献)

1.永野仁美ら編.詳説 障害者雇用促進法(増補補正版).弘文堂,2018:39-62,86-92,224-229,277-285.
2.小島健一.合理的配慮の提供をめぐる「対話」が個人と組織を成長させる.産業ストレス研究.27(2).2020.
3.東京大学労働法研究会編.注釈労働基準法(下).有斐閣,2003:944-945〔中嶋士元也〕
4.三柴丈典.安全配慮義務の意義・適用範囲.労働法の争点.有斐閣,2014:128-130.
5.三柴丈典.使用者の健康・安全配慮義務.講座・労働法の再生 第3巻(労働条件論の課題).日本評論社,2017:273-296.

 

〈執筆者〉

清水 元貴(宏和法律事務所)